【書評】「五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後」は迫力あるノンフィクションだ
チャルゲです.
今回はバイト先の社員さんに勧められた三浦英之著の「五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後」という本を紹介したいと思います.
建国大学とは?
みなさんは建国大学という大学をご存知でしょうか?
建国大学は将来の国家運営を担わせる人材を育成しようと,日中戦争当時に満州に建てられた大学でした.
日本,中国,朝鮮,モンゴル,ロシアの各民族から選び抜かれた青少年たちがそこで共に学び,名実ともに非常に優秀な学生ばかりだったそうです.
そこで認められたのは言論の自由.
戦時中の日本では考えられない自由が建国大学にはありました.
当時利害関係にあった民族同士が言論の自由を持った状態で共同生活を送る.
かつて歴史上ないような大学が満州にあったのです.
戦局の悪化とともに建国大学はその力を失い,最終的に大学はなくなってしまったのですが,その卒業生たちがどのような戦後を歩んだかを取材したノンフィクション作品です.
あらすじ
新潟
この本は著者が日本で,「新潟に住んでいる旧ソビエト領のキルギスに抑留された日本人を取材してほしい」という依頼を受けるところから始まります.
そして,そこで取材した日本人が「建国大学の卒業生」だったのです.
その卒業生との取材でかつての最高学府でありながら,歴史からほぼ消え去ってしまった建国大学の存在を知った著者は建国大学に興味を持ちます.
そして,長い取材の旅が始まります.
東京
著者は東京で建国大学の手がかりを探し始めます.
なぜか建国大学の文献は探してもほとんどないのです.
著者は大学の教授や研究員に聞きに行ったり,建国大学の同窓会長に会ったりと努力を重ね,建国大学の実像に迫っていきます.
神戸
建国大学卒業生で,戦争の混乱によって約10年もの間,日本に帰還できなかった卒業生が神戸にいるとの情報を聞いた著者は神戸へ向かいました.
そこで,聞くことができたのは建国大学で過ごした青春.
しかし,利害関係にある国出身の若者が共に過ごしたため難しい状況になることも多々あったようです.
その話を著者は神戸で老後を過ごす卒業生から聞くこととなります.
大連
著者は次に海外に住む建国大学卒業生へ会いに行きます.
まずは大連に住む卒業生に会いに行くのですが,そこで思わぬ妨害に著者は遭遇します.
この章では隣国の闇を垣間見る瞬間が描かれています.
長春
著者は思わぬ妨害に会ったものの,めげずに取材を続けます.
大連を後にし,次に会う予定だった長春に住む卒業生の元へ向かいました.
しかし,ここでもまた同様の妨害に会ってしまう著者と長春に住む卒業生.
建国大学卒業生は戦後数十年経っても,まだ理不尽を受け入れることを強いられるのです.
「不都合な事実は絶対に記録させない」
本に出てくるこの言葉がすべてを物語ります.
モンゴル
著者は次にモンゴル出身の卒業生に会うために,モンゴル・ウランバートルに向かいます.
そこで卒業生から建国大学の話と,戦争により日本に帰ることが叶わなかった日本人抑留者の話を聞きます.
故郷に帰れないとはいかに辛いことか.
ノンフィクションだからこそ深く感じられます.
韓国
著者はモンゴルを訪れたあとに,韓国に向かいます.
韓国で首相にまで登り詰めた卒業生が取材を承諾してくれたからです.
朝鮮半島分断後,初めての南北首脳会談を実現させた男からの話を聞き,同じ民族で戦争をすることの辛さを著者は感じます.
台湾
次の取材相手は台湾出身の卒業生でした.
かつて優秀な学生ばかりが集められた建国大学の中でも,ひときわ輝き「台湾の怪物」と呼ばれたその卒業生は戦後,大企業を裸一貫から立ち上げることに成功していました.
その卒業生は,そのようにたくましく戦後を生き抜く中で,どのように建国大学での日々が自身に影響をもたらしたかを語ってくれます.
カザフスタン
最後の取材相手であるロシア出身の卒業生はカザフスタンに住んでいました.
その卒業生の戦後も,戦争にに振り回された波乱の多いものでした.
筆者は日本人の建国大学卒業生とカザフスタンに向かいます.
そこで,筆者は「戦後数十年来の友人」の再会に立ち会います.
心温まる光景とともにかつての建国大学の絆が分かる,そんな瞬間が描かれています.
まとめ
この本で僕が心に残った点は3つあります.
一つ目が彼らの絆の強さ,二つ目が人生の不確定性,そして三つ目が卒業生が受けた悲惨なほどの理不尽な行いの数々です.
歴史の闇にこれほど心に刺さる物語が隠れているとは思いもしませんでした.
この本を勧めてくださったバイト先の社員さんに深く感謝しています.(よく本をくれたり,貸してくれるんです.ありがとうございます.)
グローバル化が叫ばれる現代だからこそ,読むべき一冊だと思います.
ぜひ,読んでみてはいかがでしょうか?